<Kusumoto酸化物材料トップページに戻る>

< 蛍光体読本 >

楠本 慶二 著

2018年9月改訂

リンク>蛍光体同学会

まえがき>

   以下の文章は、私が平成20年度の研究テーマとして「夜光材料(蓄光材料)」を研究するために、頭の整理用、勉強用に記述していたものです。せっかく作成したので削除するのはもったいない、この経験がだれかの役に立つかなと思って放置しています。実質的には1年間やっただけでほとんど研究していない、装置もないので、所属組織へのお問い合わせは、ご遠慮ください。

   蛍光体の専門家から見ると、内容的には読本といえるレベルではありませんが、「これから仕事、卒論で蛍光体をやることになった」という方には、役に立つかもしれません。より詳しい事が学びたい方は、項目7の参考文献をご参照ください。

   適当な教科書を探してみたのですが、現状では「蛍光体について詳しい各論の解説」を読んで「こんな感じ?」と探るしかないという状況のようです。そこで、蛍光体分野の素人から見た「そもそも蛍光体って何?」というところからの勉強として作成しました。

   最近、顔料の研究を行なうために、量子論を少し勉強したのですが、電子のエネルギー準位間の遷移(ジャンプ)の結果として、放出される電波や赤外線といった電磁波の中に可視の蛍光が含まれていると、人間は「蛍光で光っている」と表現しているようです。よって、この蛍光体読本を見る前に以下の参考資料(蛍光体ならばパート3)を見て勉強しておくと、より理解が深まるでしょう。

   蓄光材料研究の目的上、蛍光灯、PDP、無機EL(=LED)等用といった従来の蛍光材料は対象としていないので、少し内容が偏ることを、ご了承ください。しかし、これらの知識(元素の電子構造と光の係)は、元素の本質的な特性なので、蛍光灯、PDP、無機EL、光触媒、有機ELなどの参考になるかもしれません。

    ここでは私の勉強を兼ねて著作権に配慮しつつ(なるべく出典を明示)、様々な事を随時書き足しています。本テキストの作成には、長年、蛍光体に関わってこられた先輩方の研究や著作を参考にしています。勝手ながら紙面を借りて御礼を申し上げます。

 誰でも最初は素人であり、生まれながらの専門家はいません。ヒマな時、必要な時にサッと見て地道に学習していきましょう。

もっと詳細な事を学ぶキーワード>蛍光体同学会、蓄光体

 

目次>---------------------

1. 蛍光体

2. 色と波長一覧

3. 化合物の紫外線励起蛍光特性

3.1 主要酸化物の紫外線365nm及び254nmでの蛍光目視結果

4. 希土類蛍光体における励起光の吸収と発光

5. 濃度消光

6. ストークス光、アップコンバージョン、逆ストークス光、ダウンコンバージョン 

7. 参考文献集

--------------------------


1  蛍光体、(蛍光はfluorescence)

 

   紫外線、熱(=赤外線)、放射線等々のエネルギーが、物質から光として放出されることをルミネッセンス(luminescence)といい、この現象を示す物質を蛍光体という。特に放射線により発光する蛍光物質はシンチレーターと呼ばれている。

紫外線などのエネルギーが物質に入力されることによって蛍光物質中の電子が励起されて原子軌道、分子軌道の高いエネルギーを有する位置にジャンプするが、高エネルギー準位は不安定なために、すぐに元に戻ろうとして、この時に(基底状態に遷移する(移動する、正確には量子論的にいうと電子の存在確率の分布が変化(簡単にいうと電子の縄張り)時)電子の所有するエネルギーが光エネルギーとして発散されて何かしらの光が発生する。

   紫外線、可視光などなんらかのエネルギーを吸収することによって元素中の電子が励起され、種々の遷移(電子が他の原子軌道、分子軌道に飛び移ること、簡単にいうと個々の電子のなわばり領域が変化すること)を経て、準安定状態に移り、ここから安定な基底状態へ遷移する時に光を放射するものを蛍光と呼ぶ。このとき、励起エネルギーの吸収後、10-8〜10-5秒程度の短い時間内で光が放出される。

   光の正体は、電磁波であり、電界と磁界が相互に影響しながら移動し、質量はないが、有限の速度(毎秒約30万キロメートル、地球から月まで片道約1秒かかる程度の速度)を有し、光の速度は常に一定で(ガラスなど透明な物体の中では”見かけ上”遅くなる)直線のみを移動する。太陽並みの重力場があるところでは、重力のせいで空間が曲がっているので、見かけ上、光が曲がって進むように見えるが、実際は空間が歪んでいるので、光は直線運動している。

    一方、励起された電子が一度、物質中のトラップ準位につかまり、さらに熱励起によってもう一度励起されてから安定な基底状態に落ちる時に発光するものを燐光(りん光、phosphorescence)と呼ぶ。

   燐光(りん光、phosphorescence)とは、(おそらく)元素のリン(燐、phosphorus )が特定条件下で、ぼんやり光ることから、名づけられた(phosphor+escence)。ちなみに、元素のリンは、生物のDNAの必須構成元素であり、”人魂(ひとだま)、鬼火”の原因物質と推定されており、昔は人が死んだら土葬が普通だったので電灯もない時代の真っ暗な雨の日の夜などの墓場では遺体からリン化合物が溶け出して人魂が普通に見られたという。リンには、赤リンと白リン(黄色リン)などがあり、マッチの先の赤い物質は「赤リン」ベースの物質で、白リンは室温で自然発火(徐々に酸化して青く光るのがヒトダマの原因と推定)するので兵器にも使用されていた。ちなみに映画「フューリー(激しい怒りという意味)」にも、「リン弾を撃ち込んでやれ」というシーンがある。

   ちなみに、骨の主成分は燐酸カルシウム、海でリン成分が増えると赤潮が増えるのは生物の必須原料が供給されるから、肥料でリン(リン酸)が有効なのも生物の成長に必要だからであり、鶏の卵にも、リン酸やカルシウムは大量に含まれているので黄身と白身の成分だけで「ヒヨコの骨」が形成される。

   燐光のプロセスは熱励起に時間がかかるため、光の吸収から10-6〜104秒後も発光し続ける。このような発光メカニズムの違いによって蛍光と燐光は区別され、畜光現象も燐光の一種とされる。

   蛍光体には「不純物を含まない純物質の状態で発光するものと、不純物によって発光するもの 」があり、不純物によって発光する場合に発光中心(カラーセンター)となる不純物のことを賦活剤(ふかつざい)と呼ぶ。

   不純物を含まない蛍光体としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化ランタン(La2O3)などがあるが、酸化カルシウムは大気中では不安定なので、放置しておくと大気中の水分経由で水酸化カルシウムを経由してCO2を取り込んで炭酸カルシウム(CaCO3)になる。発光のための不純物(最近では希土類イオンが多い)としては、応用目的に応じMn, Tl, Sn, Pb, Eu, Ceなどがある。希土類イオンを添加した蛍光体は「希土類付活蛍光体」と呼ぶ場合もある。

   可視発光を得るには外部から紫外線、可視光などのなんらかのエネルギーを供給する必要がある。このエネルギー源を励起源と呼び、励起源の種類によって発光現象の名称が異なる。

●励起源として紫外線などの光を利用する場合( 蛍光灯、白色LED、プラズマディスプレーパネルPDP等 )→ フォト・ルミネッセンス

 注意>パソコン、液晶テレビ、LEDライトなどの白色LEDに関しては約3種類あり、安価なLEDライトは青色LEDで黄色蛍光体を発光させて白色をつくり出しており、その際に蛍光体の隙間から強力な青色光線が漏れ出ており、紫外線のように波長が短い方(=青い)は、物質(例えば人間の目の細胞)を損傷する力が強いので裸眼ではなるべく見ない事。現象的にはスキーによる雪焼けと同じ現象で、メガネのブルーライトカットは必需品と思われる。

●励起源として電子線を用いる場合( CRT、電界放射型ディスプレー( FED )等 )→ カソード・ルミネッセンス

●高電圧印加、電流注入を用いる場合( 有機EL、LED等 )→ エレクトロ・ルミネッセンス

   各励起源によって注入又は生成されたキャリア( 電子又は正孔 )や電子-正孔対、励起電子が輻射緩和することによって発光が得られる。

サイアロン蛍光体

 

参考文献>

「第2版 セラミックスの科学」技報堂出版 p212

希土類蛍光体の最近の動向、雑誌「金属」2008年8月号

セラミックス基礎工学講座シリーズ7、「セラミックスの電磁気的・光学的性質」、日本セラミックス協会、発光イオンと蛍光特性p139

 

2 色と波長一覧>

 

真空紫外線>無水銀ランプ( Xeエキシマー、PDP用 ) ピーク波長 147nm  ( 172nmの光も含む )

紫外線>低圧水銀蒸気の放電( 一般の蛍光灯 ) ピーク波長 254nm ( 低圧水銀蒸気は185nmの光を10%含んでいる )

紫色>ピーク波長400nm付近

大気圏外及び大気圏中で一番光強度が強い波長> 469nm

地上で光強度の強い太陽光線領域> 469-700-858nm ( 青〜赤  )  太陽光の約43%を占める

 注意>太陽光は、強力な紫外線&赤外線を発しているので、決して太陽を直接見ない事。ガリレオ・ガリレイは自作の望遠鏡で太陽の黒点を観察し続けたために晩年は失明した。太陽光はロウソクの10億倍の光量があるので、反射光でさえ、長く見つめない事。

 ちなみに地上屋外での紫外線は太陽光の約4%、室内の紫外線量は屋外の100分の1。

 光量(照度)は、晴天の正午ごろの明るさは約10万ルクス、直射日光が入らない部屋は明るくても1000ルクス以下。

 蛍光灯照明の部屋 約500ルクス、月明かり1ルクス以下。

一般の三波長系蛍光灯> 550nm( 緑 )、610nm( 赤 )、440nm( 青紫 )辺りにピーク波長

青色>ピーク波長480nm付近

緑色>ピーク波長520nm付近

オレンジ色>ピーク波長580nm付近

赤色>ピーク波長620nm付近

赤外線>1000nm以上

 

3 化合物の紫外線励起蛍光特性>

 

   最近、必用に迫られて物質の電子構造を勉強しています。その結果、物質の蛍光発光は、化合物の分子軌道、原子軌道の組み合わせによる複雑なエネルギー準位間の電子の移動によるもので、「個別の元素の発光特性は、参考になりそうではない」ので、ここのデータの掲載は中止しました。

 

4 希土類蛍光体における励起光の吸収と発光>

 

   Eu2+4f-5d許容遷移の吸収帯によって効率よく励起エネルギーを吸収及び発光出来るので効率の良い蛍光体を作成する事ができる。

  青緑色発光のSrAl2O4:Eu2+は、青色部(ピーク波長480nm付近)に吸収帯が伸びていて太陽光や蛍光ランプの光で光らせることができる。

  Ce3+と異なり、Eu2+の発光はひとつの基底状態への遷移であり、発光帯の幅が狭く、色純度の良い発光(=発光帯の幅が広い→色純度の悪い発光)が得られる。

  不純物としてDy3+を添加することによって適度の深さのトラップを導入したものは蓄光蛍光体として広い用途に用いられている。

<参考文献の出典> セラミックスの電磁気的・光学的性質 「発光イオンと蛍光特性」 p145

 

5 濃度消光>

 

   発光強度を増加させるために、母体化合物に希土類イオンを多くドープ(微量添加(=賦活(ふかつ、付活)するともいう))する際、ドープしすぎると希土類イオン間の距離が接近して、希土類イオン間での発光に関与しないエネルギー伝達の頻度が増えるために、ある濃度を堺にして発光強度が減少する現象。

参考にした文献の出典>高効率希土類蛍光体とその応用、TIC p37

希土類の材料技術ハンドブック、NTS,p105

 

6 ストークス光(Storkes)、ダウンコンバージョン光(down conversion)

 

逆ストークス発光、アップコンバージョン発光(up conversion)>

   ストークス光、及びダウンコンバージョン光とは、励起光によって発生した光で、励起光よりもエネルギーの低い(=励起光よりも波長が長い)光の事。励起エネルギーと発光エネルギーの差額分は熱エネルギーや化学エネルギーなどに使われる。励起エネルギーよりも高いエネルギーの光(励起光よりも波長が短い光)が発生する場合は、逆ストークス発光またはアップコンバージョン発光(up conversion)と呼ばれる。

   このアップコンバージョン効果によって、近赤外線を、蛍光体を使用して、なんらかの形で可視光や紫外線に変換させて太陽パネルで発電すると、夜でも発電可能な発電パネルが実現しそうだが、専門家によるとアップコンバージョンは効率が下がる方向なので(太陽光に比べると微々たる近赤外の低エネルギーを集めて紫外線の高エネルギーに集約しても、いくらもエネルギーを稼げない)ので、あまり意味がないとの回答。簡単に例えると、赤外線は1しかエネルギーがなく、それを工夫して2にするより、10000ある紫外線エネルギーを9000ぐらいでもいいので使用した方が効率がいいということ。

ちなみに電子はエネルギーの塊と考えられており、電磁波の振動周波数が、電磁波の所有するエネルギーに比例する。

出典>高効率希土類蛍光体とその応用、TIC、p42

 

7 参考文献集>

●「生活の中の蛍光体」 色材協会、2011 4月号、p144

●「第2版 セラミックスの科学」 技報堂出版

●蛍光体とは、「レアメタル」 工業調査会

●希土類蛍光体の最近の動向、雑誌「金属」2008年8月号

●セラミックス基礎工学講座シリーズ7、「セラミックスの電磁気的・光学的性質」、日本セラミックス協会、発光イオンと蛍光特性

●高効率希土類蛍光体とその応用、ティーアイーシィー

●蛍光体の基礎及び用途別最新動向、情報機構(定価78000円)

●最新無機EL開発動向 、情報機構(定価78000円)

●ナノ蛍光体の開発と応用、シーエムシー出版(68000円)

●蛍光体ハンドブック オーム社 →未確認情報ですが、最近、再販されたようです。

●希土類の材料技術ハンドブック、NTS,p105


<Kusumoto酸化物材料トップページに戻る>